専門家に聞く!【コロナ後の世界どう変わる?】

新型コロナウィルスがいまだ猛威をふるっていますが、私たちの日々の暮らしは続いていきます。Withコロナを受け入れ生活をしていますが、不安は常につきまとっています。家族・友人・地域・仕事・生活・娯楽etc・・・今後の世界はどのように変わっていくのか。様々な専門家に伺います。

今回は、動脈硬化・脂質異常・メタボリックシンドロームがご専門の現役ドクター、山下静也先生です。現在のリアルな病院の状況やコロナ禍での過ごし方も伺いました。

Q1.コロナ後、私たちはどう変わると思いますか?

コロナ後というご質問ですが、少なくとも数年間は新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延が完全に収束するという可能性は極めて低いと思います。COVID-19のRNAウイルスの増殖を抑える特異的な薬を開発するのは困難を極めると思います。最近、有効性が示唆されているいくつかの会社のワクチンでも、ウイルス増殖を抑制して、症状を軽減する可能性はありますが、ウイルスの完全な消失には至らないと思います。既にCOVID-19ウイルスの遺伝子変異は各地域で起こっています。インフルエンザとも共通していますが、ウイルスには必ず遺伝子変異が起こり、それによって薬剤やワクチンへの抵抗性を獲得しますので、いたちごっこになります。

また、仮に特定のCOVID-19ウイルスに対する抗体ができたとしても、その抗体価がどれくらい高い状態で維持できるか分かりませんし、別の変異したウイルスが感染すれば、ワクチンが効かない場合も相当な確率で起こってきます。仮に、ある国でCOVID-19感染症の発症を100%封じ込めることに成功した場合でも、世界中に広がっている現状では特に開発途上国でのウイルス根絶は絶対に困難と思われますので、根絶するには相当な期間を要します。インフルエンザを例に取れば、100年以上経っても未だに根絶できていませんので、同様なことが起こると思います。

 従って、今後は恒常的に変異を続けるCOVID-19ウイルスと共生していくということを考えざるを得ません。そうなると、常にマスク、手洗い、消毒用品などは必需品で、三密を避けるため、可能な限り自宅などでのテレワークがルーチンとなります。大学の授業も恐らくオンライン授業がメインとなります。会社で働く人も大都会ではなく、地方に分散することになります。工場が感染リスクの低い地方に移転し、製造現場で働く方々も地方に移住し、電車やバスを使わないで通勤し、大都会に集中する現在の人口バランスが、地方主体へ変わっていくはずです。ただ、人と人の実際の面談や接触が必要な医療、介護、食品販売、運送業、宅配などに従事する人々は移住できませんので、感染防御に気を付けながら働くしかないと思われます。

Q2.ご専門分野との関わりに変化はありますか? どのような変化ですか?

 新型コロナウイルス感染症の患者の増加に伴って、人が集まること、接触することなど(いわゆる三密)が制限されるようになり、我々のような病院では大きな影響が出ました。診療面では患者さんは病院に来るのをできるだけ減らしたいということで受診者が減りました。小児科、耳鼻科などはその最たるものですが、病気の早期発見のための人間ドックや健康診断の受診者が減り、病気が進行した状態で運ばれてくる患者さんが増えています。更に、不要不急の手術は延期するという医学会の方針も出されたため、入院患者数や手術件数は減少し、それに伴って医療機関の収支が悪化し、感染爆発とは別の形で医療崩壊を招きかねない状態になっています。また、最近は第3波の到来で、COVID-19肺炎の重症患者の入院も増え、重症患者用のベッドも東京、大阪、札幌では満床に近づいており、このままでは病院は野戦病院化し、COVID-19以外の重篤な疾患の患者の受け入れにも支障が出てきています。

 一般の人々の生活は屋内が多くなり、運動不足や過食に伴う内臓脂肪の増加を背景としたメタボリックシンドロームや糖尿病、脂質異常症、高血圧の患者が増加することが予想されます。これを防ぐには感染防御を徹底しながら、屋外で有酸素運動(ウオーキング、ジョギングなど)を行う必要がありそうです。

 医学系で言えば、国内学会や国際学会はWEB開催が主体となり、遠方へ移動して地方開催の学会に参加することも少なくなると思います。医学系の学会の委員会業務も全てオンライン開催となっていますが、これも今後続くと思います。医師会の講演会などもオンライン開催が続くと思われます。診療面ではオンライン診療も行わざるを得ない場合も出てきますが、救急で処置が必要な患者さんや、自覚症状があって検査が必要な患者さんは、結局、診療所や病院を受診せざるを得ません。

Q3.コロナ禍を少しでも快適に過ごすアドバイスをお願いします。

 コロナ禍の現状では先が全く予見できないための閉塞感が蔓延しており、失業などで自殺者も増えてきています。このような状況を快適に過ごすには、感染防御に気を配りながら、外気に当たって、新鮮な空気を吸い込んで有酸素運動を行い、ストレスを発散するのが良いと思います。私の場合はテニススクールに通っていますが、コロナでこれまでの過密なスケジュールから解放され、週末も休息が取れるようになって、運動できる自由な時間も増えました。やはり、少しでも時間があれば身体を動かすのが良いでしょう。お身体が不自由な方でも、室内でも可能な運動はありますので、何でもできることから始めるのが良いと思います。

Q4.コロナ後の新たな産学連携の可能性は?

 COVID-19の蔓延が仮に沈静化したとしても、火種は消えることは当面ないと思われます。これまで、国内・海外において、製薬企業や大学が連携して、数多くのワクチンを開発してきています。この中には不活化ワクチン、組換えタンパクワクチン、ペプチドワクチン、メッセンジャーRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンなどが含まれています。不活化ワクチン、組換えタンパクワクチン、ペプチドワクチンは、不活性化したCOVID-19ウイルスの一部やウイルスの一部のタンパクを人体に投与し、それに対して免疫を獲得させるという仕組みです。

一方、メッセンジャーRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンは新型コロナウイルスの遺伝情報をそれぞれメッセンジャーRNA、DNAプラスミドとして人に投与するか、または他の無害化したウイルス等に入れて人に投与するもので、細胞内に入ってウイルスの蛋白質を作ることでそれに対して免疫が出来ることを期待するものです。このようなワクチンが開発されたとしても、ウイルスは常に変異を続け、新たな形質を獲得して、耐性株が出てきますので、それに対する新たな仕組みのワクチンを産学連携で開発していく必要があります。

最近ではエボラ出血熱、新型インフルエンザウイルス、SARS、MERS、COVID-19等のコロナウイルスをはじめ、数年に1度は新興ウイルス感染症が発生し、世界で流行するような時代になってきました。このような現状を鑑みれば、新たなウイルスが発生した場合に備えて、産学連携してウイルスのゲノム解析による同定、PCRを含めた検査手法の早急な開発と検査態勢の確立を行う必要があります。

また、新たなウイルスに対する抗原検査法を迅速に確立し、地域に散在する検査施設ですぐに検査できる態勢も計画的に準備しておく必要があります。更に、RT-PCRやLAMP等の検査機器を十分な数で保有する必要があるだけでなく、検査試薬の量産体制も直ちに確立できるように周到に準備しておくことが重要と思われます。このような新興感染症に対する体系的な体制作りは、厚生労働省だけではなく国家の危機管理システムの中で、常に十分な予算を確保して、世界各地の情報収集と周到な準備をやっておくべきでしょう。

更に、新興感染症が出た国への往来は国の権限で直ちに禁止するという防御手段を合法化させることの重要性が今回のCOVID-19の荒波の中で感じた教訓ですが、政府の迅速な危機管理がいま問われています。人類はこのような新興ウイルス感染症との戦いを何世紀にもわたって続けて来たわけで、人類の叡智を集めて一丸となって対応すれば、それによる良い副産物もいずれは期待できるのではないでしょうか。

地方独立行政法人りんくう総合医療センター 理事長     山下静也

                     企画 (社)産学連携推進協会

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