“企業からの依頼をタイムラグなく確実に期限に合わせ成果を出し、人材の育成にも一役買う”
工学院大学 建築学部 建築学科 田村雅紀教授の産学連携の進め方を伺います。
―どのように依頼を受けることが多いですかー
『はい、直接企業から依頼がくる場合もあれば、大学の産学連携担当からくる場合もあります。その研究依頼が、社会的にも必要であり、その後、論文や特許出願などを扱えるものなのか、そのあたりを踏まえお受けするかを決めます。まずは、大学に来てもらって、すぐ話を聞くようにしています。キャンパスが新宿ですから企業もきやすいですしね。』
―企業が先生と直接お話をするとき大事なのはどんなことでしょうかー
『そうですね。大学も企業も目指すところは一緒だということをまず十分議論することが必要だと思います。そこを中途半端にすると、研究が始まっても、うまくかみ合わなくなってしまいますから。あとは、依頼内容が明確だと進めやすいです。私のところでは、相談を受けた一か月後には研究がスタートするという場合もありますよ。』
―どうしてそんなに早いのですか?契約などの事務処理や研究費など手続きにも時間がかかると思うのですが―
『まずは、本学が教職員一体により、研究開発、学生教育などの活動を進めていこうとする風土があることと、専門大学でもあり、関係者が身近で一緒に仕事をしているので、回答については早く出したいという動機が働きやすいと思います。加え、契約文書については、自分はかなりその調整は苦手?なのですが、研究推進課が作成をどんどん進めてくださいます。
研究費に関しては、文科省の標準的な価格も意識しますが、私は大体100万円位にしています。1年から1年半で成果が出せるようにしていますので、費用としてはこれ位が見合う額だと考えます。』
―相場からいくと研究費としては少し安いと感じますが、どうなのでしょう―
『確かにそうお思いになるかもしれません。勿論、共同研究になって2年契約となると国際会議にでる費用が必要だったり大きな設備を購入したりとなると更にかかりますが、私としては短期に成果を出す方が有益だと考えていまして、企業側としても100万円はちょうどよい金額なんですよ。』
―どうしてですかー
『担当者の判断でだせる金額のようです。それ以上だと上司の判断を仰がなければならなくなって、研究に取り掛かるまでのスピードが落ちますから。企業と連携する上で大事なのはスピード感もありますしね。私は、タイムラグを作りたくないんです。連絡がきたら遅くとも2,3日中には返事をしますし。企業との距離をなくしていくことが産学連携では大事かと思っています。
そしてその後は、私のゼミにいる学生たちに研究を振り分けていきます。現在新たに3年生が16人入室してきましたので、新しいテーマとして16テーマ受けられるという事です。』
―大変失礼ですが、学生が企業の望むものをだせるのでしょうか?―
『最初の段階で企業には了承を得ますし、勿論私も解決まで導いていくサポートはしていきますので大丈夫です。実験をして、結果は論文となり学会でも発表していく。この流れで、大体1年半位で成果が出せるようにしています。』
―確かに、企業として論文が出来るのは嬉しいことです―
『成果として、例えば研究したものを実際の現場で使うという段階までお願いされた場合は、そこから契約を延長していくとか、最初の段階で2年間契約とするか。私の研究室ではそのような形式をとっています。』
―学生達にとっても大変貴重な機会となりますね―
『そうなんです。学生達には最初にどんなことを研究したいのか聞き取りをしていて、なるべくそれに合うようなテーマをぶつけます。建築材料なので学生のやりたいことも多様なので、そこもまた有難いです。むしろ学生がいないと成り立っていきません(笑)また、こうした機会から共同研究をしたその企業に就職するということもあるんですよ。』
―それは、素晴らしいですね―
『はい。実際に働くというのは大変なことですが、やりたいことをやらせてあげたい。私のゼミで学んだことを活かして、また、実際にその企業と一緒に研究を進めている経験もあるわけですから、すぐに即戦力になれる。就職に関して、私は遠回りさせたくないので、時期がきたらその子がやりたいことができる企業の人事や技術担当の方を呼んで紹介しています。』
―先生がそこまでしてくれるのですか?―
『今まで私が携わった企業さんのことは大体どんな研究開発ができて、どんな先輩や指導者がいてなどわかりますので、その子に合ったところを紹介します。私も紹介するからには、就職してから力が発揮出るように責任をもって育てていきますし、また企業側も田村先生からの紹介だから大切に育てていこう、一緒に育てていこうという信頼関係ができていると思っています。』
―これも新しい産学連携なのではと思いました。大学で育てた人材を企業に輩出していくという・・・―
『そうですね。当たり前のことかもしれませんが、その距離が近いと思います。建築という分野はとてもユーザーとの距離が近いです。今年の台風では強風で屋根が飛ばされたり、古木や電柱が倒れてきたりしました。今まで品質や状態が信頼されてきたものが想定を飛び越えてしまったんです。そうした材料を扱って研究しているものにとっては、こうした災害の対処に責任があると思っています。
私が、タイムラグがないように、すぐ連絡が取れるように心がけているのは、こうした何か問題が起こった時にすぐに答えなくてはいけないという責務が生じているためかもしれません。こうした意識は働き出してからずっと心にとめていることなのですが、実は私の師匠から受け継いだことなんです。ですから、私が受け持ってきた学生達にも、こうしたことが受け継がれていけば、社会に対して貢献でき人材も育てることができる新しい産学連携になるのではと考えます。』
―産学連携が人も育てる。まさしく、大学にとっても企業にとっても理想の産学連携だと感じました。ありがとうございました―
田 村 雅 紀 建築学部・建築学科 環境材料学研究室 教授
■主な研究テーマ
建築材料の完全リサイクル化/環境材料の安全衛生テクノロジー/地球材料の資源コンサベーション
■受賞歴
2018年 工学院大学創立131周年記念 2018年度 工学院大学 大学表彰受賞
2018年 2018年日本建築仕上学会学会賞(論文賞) 「建築の遺産化に向けた建築仕上げの評価に関する一連の研究」
2017年 第12回 日本漆喰協会作品賞受賞 「岩手銀行赤レンガ館」
2017年 第39回 石膏ボード賞(特別功労賞) 「建築材料を環境面から評価した一連の研究」など多数
◆企画 産学連携推進協会◆