(一財)地域活性機構 副理事長・事務局長  地域活性学会  常任理事 尾羽沢信一  先生

昨年度、地方創生事業の一環として、日本生産性本部による「地域創生カレッジ事業」が実施され、当協会もeラーニングVTR制作で参画させて頂きました。

地方創生に携わる専門教授にお声がけ頂いたその事業は、まさしく‘産学官’三者同士の連携のもと進められています

今回はそこでご一緒させて頂きました地域活性機構の尾羽沢信一先生に、地方創生・地域活性という視点から「現代社会で起こっていること、そして産官学連携の必要性」についてお話頂きました。

 

私は長年一つの専門領域を研究してきた大学人ではありません。大学院での経済思想研究から民間調査機関に転じ官民からの受託調査を20年ほどしてきました。その後いくつかの大学からお話があり、教員の真似事のようなことをしながら個人のリサーチ事務所を経営してきました。

10年ほど前に、法政大学の教員になったときに「地域活性」の問題にかかわるようになりました。地域おこし塾の塾長や、地域活性学会の事務局長、地域でのソーシャル・ビジネス展開についてのリサーチなどをしましたが、思うところもあり昨年から(一財)地域活性機構の副理事長兼事務局長をしております。地方の衰退問題は古くからあるのですが、グローバル資本主義、人口減少や少子高齢化、大都市圏への人口集中などがこの問題を一層深刻化させています。

この問題を研究課題とするのではなく、少しでも着手できるところから改善し、都会と田舎、豊かな地域と貧しい地域の格差解消の糸口を見つけたいと動き始めたところです。

 

~現代社会の構造的問題~

 

アメリカ発のグローバル資本主義が世界に様々なひずみを生じさせ、資本主義が終末期を迎えつつあることは様々な研究者から指摘されています。

アメリカの経済学者ロバート・ライシュさんは、「暴走する資本主義」で次のような主張をしています。

「米国の真の意味での繁栄時期は1945-1975で終わっていた。この間は、資本主義と民主主義の両立、所得格差の縮小と雇用の安定、主要7か国の工業生産高の60%を生産、年功に基づく処遇が一般的であるなどが同時に成立していた。1970年代後半から米国の民主的資本主義に根本的な変化が生じ、経済構造は著しく競争的になり、IC、インターネットなどの技術革新が加速し、上位1%への富の集中が進んだ。その結果、CEOの所得は天文学的な水準になり、中間層の多くは所得下位層に転落した。」

フランスの経済学者トマ・ピケティさんは、それまでデータも不十分だった「格差論」を15年かけて、世界の税務データを収集することを通じ、歴史的なデータに基づいて実証し、「21世紀の資本」は世界的なベストセラーとなりました。彼は今後格差はより深刻になると予想しています。

私自身もバブル崩壊直後の「土地基本調査」の設計と実施に深くかかわった経験がありますので、不動産という高額資産がいかに一部の法人・個人に集中・偏在しているのかを実感として知っています。

現代社会の最大の問題である、格差と貧困のベースはこんなところにあると思いますが、実はこれらの問題は研究者や役所がいくら解析しても問題の構造はわかるものの解決に向けて動き出していません。

地域の問題も全く同じで、話題となった元総務大臣・増田さんの「2010年の国勢調査の実績値をもとに推計して、このままでは2040年には896自治体が消滅する可能性を持っているという大変、衝撃的な結果になりました」という議論をどう受け止めたらよいでしょうか。これには多くの研究者から反論がありますし、仮にいくつかの自治体が消滅したとしても、そこで生活している住民やコミュニティは何らかの形で残るのです。

 

アカデミアの学問体系や人脈、官の情報力や調整力、民間企業の独自の技術・ノウハウやマーケティング力、非営利セクターの情熱がうまくかみ合う事が成功へ

 

~問題解決に向けての産官学民連携~

 

格差と貧困、地方の衰退いずれも問題は根深く構造的で、公的セクターや研究者がいくら単体で努力してもそれだけでは解決に向かわないでしょう そこでポイントとなるのが、産官学民の連携です。企業、役所、大学、NPOなどの民間セクターは抱えているミッションも考え方もかなり異なるわけですが、こうした異なった世界の人たちが真の意味で協働することで問題解決の糸口が見えてくるのです。実際に様々なソーシャル・ビジネスや地域ビジネスにはこうした複数の主体が積極的にコミットしているケースが多くみられます。利潤最大化のみを目的とした営利企業のビジネスが行き詰まりを見せ、これに代わるものとして、社会的課題にビジネスの手法で立ち向かおうとする起業家が増加しています。また、地域においても地域課題解決をミッションとしつつ、ビジネス的な手法を取り入れて自立した地域経営を成功させるケースが次々に報告され始めています。

成功しつつある事例では、アカデミアの学問体系や人脈、官の情報力や調整力、民間企業の独自の技術・ノウハウやマーケティング力、非営利セクターの情熱がうまくかみ合って地域や格差問題解決への糸口が見え始めています。

 

 

尾羽沢 信一 先生/(一財)地域活性機構副理事長・事務局長・地域活性学会常任理事、総務企画委員長

 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修了

()インテージ主任研究員を経てフォアサイトリサーチラボ設立

法政大学大学院政策創造研究科准教授、地域研究センター特任教授、専修大学講師、獨協大学講師などを歴任

 

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