【イノベーションジャパン2019注目シーズ!】強化段ボール製ポータブルトイレの開発

『 強化段ボール製ポータブルトイレの開発 』

東洋大学 ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科 教授

繁成 剛

 

■ はじめに

大規模災害が発生した直後の避難所ではトイレの数が不足しているところが多く、100人規模の避難所にトイレが1ヶ所しかない例も報告されている。国際的なNGO団体が定めたスフィア基準によると避難所には20人に1台の便器が用意されていることが基準となっている。また国内の避難所屋外に設置される仮設トイレは段差が高く和式トイレが多いため高齢者の使用が困難になっている。

 

■強化段ボール製ポータブルトイレ

避難所におけるトイレの問題を解決するため強化段ボールでポータブルトイレをデザインし、2018年から埼玉県日高市にあるモスト技研と共同で開発を進めてきた。コンセプトは備蓄品としてコンパクトに収納でき、必要な時は短時間で誰でも組み立てて使用できることとした。コストダウンのため2層強化段ボールを使用し、強度を高めるため便座は2重構造とした。組み立ては、側板に4ヶ所の折れ目を入れて五角形に折り曲げ、裏板を側板のホゾ穴に差し込み、底部補強板と上部補強板をホゾ溝に。底板は便器の内側から裏板に差し込む。最後に本体の上部に2枚の便座とシートクッションを側板上部に差し込めば完成する。また臭い対策のため便座蓋も加えた(図1)。

便座は高さ382mm、幅370mm、奥行き420mmで、便座と本体の前方の形状が半円形なので、便座に自然に脚を開いて膝を屈曲できるので立ち上がりやすい姿勢になる。製品名はまだ正式ではないが仮称を「ダントイレ」とした。実際に使用する時は2枚の便座の間に使い捨てパックまたはポリ袋を挟んで固定し、袋の中に凝固剤やペレットなどを入れると臭いなどの問題が軽減できる(図2)。

■トイレのモニター調査

強化段ボールで試作したポータブルトイレを2019年の3月に北海道の厚真町、熊本県の益城町において、避難所で生活したことのある住民、被災した地域の役場の防災課の職員、リハビリテーション関連病院の医療関係者へのモニター調査を実施した。モニターでの質問項目は、便座の座り心地、サイズ、素材、本体の強度、耐久性、安定性、汚物処理の方法、その他の要望である。

~ 北海道での調査 ~

3月5日に厚真町役場の研修防災グループの篠原氏に地震直後の状況と対応について説明を伺った後、ダントイレを紹介した。次に町内の仮設福祉施設を見学し、施設職員にダントイレの利用について意見を伺った。翌日は町内の住民で避難生活を体験した障害児とその両親にダントイレを紹介し、インタビュー調査を実施した。また仮設住宅を訪問し、70代の女性に生活の状況を伺い、ダントイレの座りやすさ、立ちやすさ、便座のサイズなどの評価をしてもらった。その後、町内の総合福祉センターにおいて80代の女性二人にダントイレに座ってもらい、感想を伺った。

~熊本での調査~

3月28日に熊本県上益城郡御船町の特別養護老人ホーム「グリーンヒルみふね」を訪問し、施設職員と利用者を対象にダントイレのモニター調査を実施した。翌日は久留米市の義肢装具士である岩崎満男氏の紹介で山鹿市にある障害児施設「愛隣館」を訪問し、三浦貴子施設長と職員15名にダントイレを紹介した。その後、玉名市の障害児デイサービス施設「銀河ステーション」を訪問し、施設長の森光靖氏と社会福祉士の楢山聡氏にダントイレを紹介した。どちらの施設も緊急時やバスハイクなどのイベントに活用できるという意見がうかがえた。

3月30日は益城町のテクノ仮設団地の集会所において、熊本学園大学 ボランティアコーディネーターの照屋明日香氏と北九州市立総合療育センターの中村詩子氏と田島陸子氏の協力を得て、避難生活を続けている高齢者5名にダントイレを紹介し、モニター評価に協力していただいた(図3)。どなたも段ボール製のトイレに関心が高く、購入したいという人もいた。

■アンケート結果のまとめと今後の計画

2019年3月4日から3月30日の間に北海道、岩手県、熊本県の地震による被災地を訪問し、ダントイレのモニター調査を実施した。アンケートの回収数は173名であった。アンケート記入者の職種と人数は、PT26名、OT22名、看護師6名、言語聴覚士5名、義肢装具士5名、介護福祉士4名、保育士11名、医療事務職5名、医師1名、相談員1名、施設職員29、教員36名、学生20名、保護者3名、不明19名である。ダントイレの高さと安定性については概ね良好であったが、一部低いという意見があった。便座の穴の大きさは意見が分かれ、小さいと感じる人と大きすぎて不安定になると感じる人がいた(図4)。使い捨てパックの使用に関しては賛同者が多かったが、コストを考えてビニールの使用を勧める人が多数いた。不安要素としては本体が段ボールであることから、汚れ、匂い、衛生面の問題を懸念する意見が多かった。また立ち上がりの補助となる手すり、プライバシーを保護する壁の設置の要望が複数あった。

以上の結果を基に、モスト技研のエンジニアとの共同でダントイレの最終仕様を決めて20台を製作し、神戸市、静岡市、北九州市、伊達市、東京都のリハ関係者、教員、障害当事者に送付し、モニター調査を継続している。また大学でイレクター製の手すりと強化段ボール製の個室を試作し、その有効性について確認した。

■製品化された座位保持装置

■2018年7月に出版した本

 

■お問い合わせ先

・繁成 剛

東洋大学 ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科

埼玉県朝霞市岡48-1

TEL/FAX 048-468-6347

・学校法人東洋大学 研究推進部 産官学連携推進課

東京都文京区白山5-28-20

Tel:03-3945-7564 Fax:03-3945-7906

 

学校法人東洋大学

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webサイト http://www.toyo.ac.jp/

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