佐賀大学農学部の松本雄一研究室では、機能性食品・化粧品開発をキーワードに、原料植物素材から商品の開発までの様々な課題を解決するための研究を行い、更には、地域企業などと商品開発を進めています。
そこで今回は、≪アグリビジネス創出フェア2022≫にて出展していた”キクイモ“研究についてご紹介しつつ、松本先生のお話、そして実際に産学連携を行った企業にもお話を伺っています。これから産学連携に踏み出したい企業は必見です!
■キクイモとは
キク科ヒマワリ属の多年草で黄色のキレイな花を咲かせます。地下茎の生姜に似た部分を食用とするのですが、イモといえどもデンプンは、ほとんど含まれておらず、イヌリンという多糖体により構成されています。この“イヌリン“が今、注目されている成分です。水溶性食物繊維なので、便秘解消や肥満の予防、生活習慣病の予防など様々な効果が望めます。
■高品質で安定して採れるキクイモ産地の拡大
商品の製造の際には高品質な原料が安定的に必要になります。他の野菜であれば様々な農協や行政などの支援がありますが、キクイモは何もかもが不明なことばかり。途中で枯らしてしまったり、成分が少なかったりと苦労が絶えません。そこで、研究室では北海道から鹿児島まで全国の産地を回り、それぞれの畑の調査を基に地域に合った栽培技術を確立し、原料の供給元となる産地の拡大を進めています。地域の特産品として、地域活性化にも繋がっています。
■美味しくて健康効果の高いキクイモ食品の開発
キクイモ原料を食品として加工する際に着目すること、それは高い機能性です。研究室では様々な加工品の特性や適切な加工条件を明らかにしています。
キクイモ加工品の定番は、塊茎を焙煎した「お茶」です。そこで、お湯出し・水出し・温度・時間など、どのような条件で成分や味が高まるのか?焙煎で成分が変ったりしないか?粒の大きさは?具体的にどんな成分・機能があるか?など、健康・消費を考えて様々な内容を解明しています。さらに、味を調べる際には、味や硬さ、色を数値で表せる様々なセンサーを使用し科学的・客観的なデータ分析を行っています。そうした研究・調査を経て商品の特徴や強みを明らかにし、広報活動にも繋げていきます。結果については学術論文としての紹介のほか、学生も交えた地域交流イベントでの紹介など、販売や認知度向上に向けた様々な取り組みも行っています。
■実際に商品化されたもの
・お茶・ドレッシング・ふりかけ ・麺・サプリメント・ゼリー・漬物・飲食店メニュー など
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―産学連携をしようと思ったきっかけをおしえてください―
『 私がキクイモに興味が湧いたのは、ある糖尿病専門医のお話がきっかけでした。キクイモの機能性成分によって現代病の改善が期待できるとのことでしたので、そこから、キクイモの栽培、そして商品化を目指したのです。実現していくためには、キクイモを適切に栽培し、タイミングをみて収穫、そして最適な加工方法の構築が重要で、それが商品のキーポイントになります。
また、消費者にキクイモの持つ機能性を、正確に伝えるため、専門的な知識と、裏付が必要でした。更に商品化のためには、美味しさも重要と考えました。私は、緑茶を例にとり、キクイモ茶の開発を目指そうと思っていたところ、アグリビジネス創出フェアにて松本雄一先生と出会ったのです。松本研究室では、浸出温度とその時間の関係を研究、浸出成分、機能性成分の確定に加え、味覚計測による味質まで明らかにされておりましたので、ご協力を仰ぐこととなりました。
現在はキクイモ茶の機能性食品届出のご指導をいただいています。商品の機能性表示のための分析、対応する論文の抽出など一連の準備が整い、消費者庁に提出したところです。これが受領されますと現在の商品表示(栄養成分表示)に加えて、特定の現代病予防改善に対する機能性表示が可能となり、商品の認知度が上がることが期待できます。』
―大学との契約はいかがでしたか―
『はい、契約につきましては研究室と大学事務局により、短期間でスムーズに運びました。近々契約更新の時期だったのですが、テーマの進捗状況に合わせた形のご提示をいただいたので、今後も継続となりました。』
―今後、産学連携を希望する企業に向けてメッセージをいただけますか―
『大学側は研究だけではなく、シーズを商品開発や技術応用面へ展開するための、色々な支援をされます。産業側は具体的な商品提供等によって、自社の利益と共に、他者に広く貢献することができる喜びとなります。産業側と大学側、先生との信頼関係のもとで、科学情報や技術情報を得られますので、お互いの成果に結び付いていくと思っています。』
ITU(アイティユー)稲葉茂夫
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―企業と連携する上で心掛けていることはなんですか―
『食品や化粧品などの商品の開発においては、原料、加工、販売など様々な面で課題が生じるかと思います。例えば原料と一口で言っても、収量や品質、病害虫、肥料、農薬などどうすればよいか、加工でも貯蔵や加熱などの条件と成分・機能との関係など色々あります。これらを解決して商品に繋げる場合、自分は〇〇の専門だから他は関わらないということでは話しが進みません。ですので、商品の販売に繋げられるよう、できる限り広い分野の課題解決に携わらせて頂いております。
これは、私自身の経歴によるところが大きいのですが、一般的な研究者の場合は、大学院から一つの部門の専門家として研究を進めて来られた方が多いと思います。私の場合、元々は研究者ではなく、修士で県庁(農林水産部)に就職し、行政職も含め人事異動を繰り返しながらマーケティングや6次化、栽培・経営支援、法人化、担い手育成、品種開発など様々な業務を行ってきました。その間大学院に通学し博士号を取得するなどをしております。このため、業務の対象とする内容が多様になっております。また、公務員時代にはある意味社会貢献が仕事でしたので、大学教員となった今でもその多様な専門性や経験を自分の強み・特徴にして、学問のための研究だけではなく、社会の利益に繋げることも念頭に仕事を進めています。
商品を通じて社会に繋がることも自分自身の興味や楽しみでもあり、依頼された「仕事」としてではなく、「やりがい・楽しみ」として取り組んでおります。』
―今後やりたい産学連携はありますか―
『私の研究対象は農業から食品までの広い分野になります。ですので、加工・機能だけでなく、こだわりの原料など生産現場も含めた課題解決にご協力できればと思っております。
また、元県庁公務員として6次産業化に取り組む農業生産法人の方や自治体など地域振興に関する取り組みにも関われればと思っております。』
―産学連携を考えている企業に向けてメッセージをお願いします―
『大学は学術研究になりがちではと思われる方も多いと思いますが、社会実装に向けた応用研究やコンサルティングなど様々な支援を行っております。原料や加工・開発・広報など何かしらお力になれる部分があるかと思います。費用については相談できますので、お気軽にお声がけください。』
佐賀大学農学部 生物科学コース 機能性植物資源学分野(松本研究室)
http://organicfarming.ag.saga-u.ac.jp/index.html
≪企画・運営 (社)産学連携推進協会≫
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