【新しい半導体材料・構造・デバイスをつくります!】

コロナ禍の中、ステイホームの推奨もあり、家で過ごす機会が増えていると思います。それに伴いテレビ会議や動画視聴など各家庭における通信負荷の増大が課題となっていますが、そのためにも通信機器の根幹を担う半導体の技術革新は避けて通れない問題です。

そこで、工学院大学 先進工学部 教授 山口智広先生に半導体の現状での課題と未来を見据えたお話をお伺いしました。

―まずはご研究について教えてください―

半導体の結晶成長です。結晶というのは、原子が周期的に規則正しく並んでいるものをいいます。基本的には、それぞれの原子がもつ価電子(最外殻の電子)を共有し合うことにより原子同士が結合され結晶が作られます。この価電子がすべて結合の役割を果たしていると電気を流さない「絶縁体」となり、結合の役割を果たす以外に自由に動き回れるものがいると電気を流す「導体」となります。「半導体」はその中間の性質で、電気を流したり流さなかったりを自由にコントロールできるため、世の中で重宝されています。

―半分導体、だから「半導体」というのですね―

『はい。半導体の持つそのような性質をうまく利用して様々な半導体デバイスが生み出され、日々改良され続けています。半導体材料の代表格はSi(シリコン)ですが、Si以外の新しい2種類以上の材料を組み合わせて生み出される化合物半導体を使えば、Si半導体では成しえなかったことが実現できます。発光ダイオード(LED)はその代表例です。また、機器の小型化や省電力化なども実現できるようになります。最近、キーワードとして一つあげられるのは、“パワーデバイス”というもの。例えばパソコンや携帯電話のACアダプタなどは、以前はとても大きかったのが技術の進歩に伴い今はだいぶ小さくなっていますよね。また、電車の加減速やエアコンの調整なども、昔に比べると随分と静かにスムーズにできるようになっています。これらは新しい半導体材料による高性能化が寄与した成果と言えます。』

―そうしたものと山口先生のご専門である結晶成長とはどのように関係しているのですか―

『結晶の理想的な構造というのは、物質の中で原子が周期的に規則正しく並んでいることなのですが、2種類以上の元素材料を組み合わせた化合物半導体では、理想的な結晶配列を作りづらく、周期性の乱れた箇所に結晶の欠陥(原子同士の結合が途切れた状態)が導入されることになります。また結晶内にナノ(1 ナノメートル (nm) = 10-9 m)構造を埋め込むことにより、新たな機能を生み出すことができますが、別の材料からなるナノ構造を埋め込むと、子供のおもちゃの組み立てブロックを積み上げている最中に別のサイズのブロックを積み上げる状態をイメージしてもらえば分かりやすいかと思いますが、作るのが難しく、また、結晶の欠陥が導入されやすくなります。結晶の欠陥は、デバイス特性を悪くします。私の研究では、X線や電子線を結晶に当てながら作られている結晶の状態を常にモニタリングしながら、理想の結晶製作方法を検討しています。結晶の構造が理想状態に近くなればなるほど、その材料の持つ性能を引き出すことができ、半導体デバイスとしての品質を高めることが可能となります。

―その成果は、社会実装としてどのように応用されるのですか―

『化合物半導体の社会実装は、先ほど説明したパワーデバイスの他、LED、レーザ、太陽電池、光センサなど幅広く進んでいますが、最近私が興味をもっているのは「光給電(OWPT)」です。光でエネルギーを送れるようになれば、これからのライフスタイルもだいぶ変わってきそうですよ。』

―それはどういうことでしょうー

『今、照明器具としてLEDがどんどんと普及しています。LEDを用いて照明を作るためには青色光は欠かせません。青色光に対し非常に高い感度を持つ受光器を開発することができれば、LED光を利用して電気が供給できるようになるので、家の中でもっと便利にエネルギーを使うことができるようになります。』

―太陽光パネルのようなものを想像したらよいですか―

『そうですね。太陽光発電と同じように家の中の光により電気が作れるようになります。

―それはいいですね。太陽光発電のように天気にも左右されないですし―

『はい。エネルギーハーベストの観点で将来性に期待が持たれます。また更に一歩進みますと、家の中で将来「レーザー」が使われるようになるかもしれません。例えば、レーザプロジェクタを考えると、今よりもっとリアルな質感のプロジェクターができますので、テレビはいらなくなります。また、すでに車のヘッドライドなどで搭載が始まっているものもありますが、レーザー光を照明として機能させることもできますから、照明器具も不要になります。さらに、光は通信にも使えるので、Wi-Fiの代わりに利用できれば電波の枯渇問題の解消にもつなげることができます(※)。これはLi-Fiと言って研究が進んでいます。

※家庭でのワイヤレス製品の増加に伴い、過剰にWi-Fiが使用され電波が枯渇する問題が発生している。

―確かに部屋はスッキリしそうですね。生活スタイルもかなり変わりそうです!―

『そうですね。特に台所はコンセントの位置が決まっているため冷蔵庫や電子レンジの置き場所が決まってしまいますが、それがワイヤレスになると考えるとかなり住宅空間を自由に使えるようになります。』

―そのためには、先ほどのLEDの受光器のようなものが必要になるということですか―

『はい。家の中で高効率に光より給電できるデバイスが今はまだないので、その新しい材料をぜひ作りあげてみたいです。』

―それ以外にも、今後発展させていきたい研究はありますかー

『やはり先ほど言った、「光による照明・ディスプレイ・通信・給電を一体化した機器」の開発が一つ。あと、結晶は色んな材料毎に違った特徴を持つので、それを汎用的にどうやって組み上げていけば良いのかという理論を、データを用いて構築していきたいです。これからは半導体の研究でもAI・ビッグデータの解析が幅広く使われていきますので、どうすれば結晶をよりパーフェクトな状態に近づけることができるのか、またそれを汎用的に利用できるのかの理論作りをこれからやろうとしています。

―そうしたことが実現したら社会への還元にもなりますし企業との連携も大事になりますね―

そうですね。本研究室では、企業からの依頼にもできるだけ答えようと思っています。「こんな材料がほしい」「こんなことに困っている」ということでもいいです。また、試料をお持ちいただければ、それを評価解析することも可能ですし、我々の方で一からデバイスを作るということもできます。本学では、産学連携の一つとして「技術指導」という制度がありまして、このような分析、試作等にも活用いただくことができます。一例として挙げると、企業として活用したい研究素材(試料、材料、デバイス構造等) があります。ただし、特許の観点から民間の試験機関等に話をすることに二の足を踏んでいる。そんな状態でも、我々は、試料の分析、新材料結晶の提供、デバイス構造の試作等を行えます。それが上手くいきそうであれば、次のフェーズとして共同研究先の1つと考えてもらえればそれで構わないと思っています。まずは、一歩踏み出してご相談いただければと思います。

―最後に、研究にかける想いを聞かせてください―

時代の流れからアプリケーションを含むソフトウェアに注力する企業や興味を持つ学生が増えています。この流れは致し方ない面もあります。ただ、IT化社会においてもハードウェアはなくなるものではありません。むしろハードウェアあってのIT化社会の実現であると思ってます。日本のお家芸であった半導体を基盤としたハードウェア産業と新しいソフトウェア産業の融合により創り上げられる科学技術立国の一助となれるよう、基礎研究に邁進していくとともに研究者や設計・開発者として活躍できる若い人材を社会に送りだしていきたいと思います。

―本日はありがとうございました。山口先生の研究により多くの問題が解決することを期待しています!―

『こちらこそありがとうございました。』

工学院大学 先進工学部  山口智広 教授

■研究キーワード

化合物半導体の結晶成長とデバイス応用

■研究分野 

ものづくり技術(機械・電気電子・化学工学) / 電気電子材料工学 /

■受賞歴

2015年第3回関博雄記念賞

2010年EMS賞(第29回電子材料シンポジウム(EMS29) 奨励賞 

2009年日本結晶成長学会第7回 奨励賞 

2003年第33回結晶成長国内会議講演 奨励賞 

2000年平成12年電気関係学会関西支部連合大会 奨励賞 

                    ◆企画 (社)産学連携推進協会◆

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