【seeds アグリ系】光を利用した新規昆虫制御技術の開発

『光を利用した新規昆虫制御技術の開発』

石川県立大学 生物資源環境学部 生産科学科 応用昆虫学 准教授 弘中 満太郎

 

キーワード:昆虫,行動,走光性,誘引,行動抑制,忌避,害虫防除,生態的光害

◆研究概要◆

【1.昆虫の走光性を利用した高誘虫技術の開発】

(目的)「飛んで火に入る夏の虫」という現象について理解し,それを利用することで,より虫が集まる光捕虫器や色彩粘着板を開発する.

(概要)諺にあるように,昆虫は光に強く引き寄せられる.この「正の走光性」と呼ばれる性質により,昆虫は外灯周りを飛び回り,工場や店舗,民家などの屋内に侵入する.昆虫の走光性は,その行動メカニズムと適応的意義が今も十分に明らかになっていない謎の現象であると同時に,光源の属性,個体の特性,環境条件などによって影響を受ける複雑な定位行動である.それらの研究を進めることで,昆虫を強く誘引する新しい光技術を生み出し,これまでにない製品を開発できる.例えば,私たちの研究グループは近年,昆虫が光源の近傍に作られる視覚的境界部(視覚的エッジ)に強く誘引されるという,「エッジ効果」を見いだした.エッジ効果を利用することで,乾式光捕虫器,電撃式光捕虫器,粘着式光捕虫器,吸引式光捕虫器,燈火採集用ライト,色彩粘着板,パントラップ,視覚強調型フェロモントラップなどといった農業,製造業,小売業,学術研究,日常生活などで利用される多彩な視覚トラップの誘引効果および捕獲効果の増強が可能となる.最初の取り組みとして,食品工場などでの使用を想定した新しいエッジ式光捕虫器を社会実装した.

 

【2.光を用いた野生動物の低誘引・行動阻害技術の開発】

(目的)野生動物の光に対する反応性の特徴について理解し,それを利用することで,より虫が集まりにくい照明や野生動物に影響の少ない光環境を提案する.

(概要)昆虫を含めた野生動物は,光に対して「誘引」される以外にも,「忌避」,「背光反応」,「行動抑制」,「行動促進」といった様々な反応を示す.対象種の光に対する反応の特徴を明らかにすることで,これまでにない低誘引や行動阻害を目的とした光技術を生み出すことができる.例えば近年,光源の点滅(フリッカー)が昆虫の走光性に強く影響を与え,特定の属性をもつフリッカー光が光源への正確な定位行動を撹乱することを発見した.フリッカー光を用いることで,低誘虫機能をもつこれまでにない光行動制御技術とそれに基づいた低誘虫ランプを開発できる可能性がある.同時に,生物多様性を守るという保全生物学的観点からも,街灯や道路照明などへの昆虫の誘引の問題やその解決方法についての研究の必要性が高まっている.捕殺する必要のない昆虫や保護したい野生動物の行動を適切に制御し,人間活動による人工光の増加と野生動物とのより良い関わり方を模索している.

 

【提供できるシーズあるいは支援できる技術分野】

1.防虫を目的とした光による高誘虫技術の開発

2.防虫や生物多様性の保全を目的とした低誘引・行動阻害技術の開発

3.防虫を目的とした昆虫や小動物の捕獲技術の開発

4.農業,製造業,小売業,日常生活などで問題になる害虫の防除のアドバイス

 

【産学・地域貢献に関する経験・実例】

1.H26〜H30, 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「次世代農林水産業創造技術」,昆虫走光性に影響を及ぼす視覚的属性を利用した新規誘導技術の開発.

2.H25〜, 衛生管理サービス会社との共同研究に基づく,エッジ式のLED光捕虫器の開発および社会実装.

3.H24〜, 合成樹脂メーカー,日用品メーカー,衛生管理サービス会社,農業資材メーカー,照明メーカー,各県の農業試験場との共同研究,論文発表および特許出願.

4.H21〜H25, 農林水産省「生物の光応答メカニズムの解明と省エネルギー,コスト削減技術の開発」,カメムシ類の視覚定位における感覚器適応に基づいた行動制御.

 

 

 

 

 

 

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