奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 教授 和田 隆広

1.概要

自動運転車両の登場,VR技術の進展に伴い,人々が酔い(動揺病)を経験する場面が増加している.酔いを低減するには酔いの程度の定量化が望まれていたが,困難とされてきた.我々は理論的,実験的研究を通じ,動揺病を予測するモデルを開発している.またモデルを用いた動揺病低減策への応用も多く実施している.

2.動揺病計算モデルの例

 動揺病の発生機序として,感覚矛盾説/感覚混乱説(過去の経験と,感覚器から得られた信号の矛盾の蓄積が酔いに繋がるという仮説)が広く支持されている.感覚矛盾説における「矛盾」には様々な信号が考えられるが,これを感覚器等で知覚された「重力方向」と考えるSubjective Vertical Conflict(SVC)仮説が提唱されている.我々はこのSVC仮説に基づく,動揺病計算モデルを複数提案している.

2.1 頭部運動から推定するモデル(図1) [1]

 頭部運動(頭の加速度,角速度)から動揺病の程度を推定するモデル.IMUセンサ(ジャイロセンサ,加速度センサ)のみから動揺病程度を推定する.

2.2 視覚入力と頭部運動[2][3]

IMUセンサとカメラから動揺病の程度を推定.同じ車両運動でも前方を見ている場合と,スマホを観ている場合で酔いの程度が異なるが,このような現象を再現するモデル.

2.3 人間の運動に対する慣れを加味したモデル[4]

 同じ運動刺激であっても,単純な正弦波運動では酔いが少ないとことが知られている.このような人間の運動予測を加味したモデル.

3.モデルの応用研究

モデルを活用した動揺病低減策の研究がいくつか行われている.

・車両制御手法

・シート姿勢制御

・車両軌道/車両速度パターン計画

・車両サスペンション制御  など

4.その他の研究例

ヒューマンロボティクス研究室ではこれ以外にも多くの動揺病研究を実施している.

・車両乗車中に文字を読んでも酔いにくくする研究

・車両運動中の酔いを減らす頭部運動の生成研究

・その他,乗物酔い,宇宙酔い,cybersicknessにおける動揺病の発生機序,低減策について研究を行っている.

[1] T. Wada, et al., “Analysis of driver’s head tilt using a mathematical model of motion sickness,” Int. J. Ind. Ergon., vol. 63, pp. 89–97, Jan. 2018, doi: 10.1016/j.ergon.2016.11.003.

[2] T. Wada, et al., “A Computational Model of Motion Sickness Considering Visual and Vestibular Information,” IEEE International Conf. on SMC 2020.

[3] H. Liu, et al., Motion Sickness Modeling with Visual Vertical Estimation and Its Application to Autonomous Personal Mobility Vehicles, IEEE Intelligent Vehicles Symposium, 2022

[4] T. Wada, “Computational Model of Motion Sickness Describing the Effects of Learning Exogenous Motion Dynamics,” Front. Syst. Neurosci., vol. 15, Feb. 2021, doi: 10.3389/fnsys.2021.634604.

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研究室ウェブページ:https://sites.google.com/view/humanroboticslab

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