【コロナ後の世界どう変わる?】
- 2022/2/28
- 教授インタビュー
今回は、呼吸器疾患の専門家、元日本医科大学の教授であり、現在は呼吸ケアクリニック東京の木田厚瑞医師にコロナ禍に見舞われている日本について伺いました。
―2020年から始まった新型コロナウイルスの流行ですが、どのように先生はとらえていますか―
『私は、感染症の専門ではないのですが実際にはかなりの人を診ています。後遺症で悩む人も多いですよ。新型のコロナウィルスは急性の呼吸器感染症であり、重症例では全身症状を伴います。どのような形で終息するかの予想は難しいのですが、確実にわかっているのは、“必ず解決するということ”です。人類史では、これまでも感染症との闘いを繰り返してきました。天然痘、ペスト、コレラがその代表です。 “結核”もそうです。結核は“抗酸菌”と呼ばれる細菌の一種なのですが、この抗酸菌も時代によって多い時もありましたが現在は抑えられている。同じく抗酸菌と分類される菌ですが、 “非定型抗酸菌症”は高齢女性に多い感染症です。最近、増えています。当クリニックでもたくさんの方が受診するようになり、驚いているところです。』
―どうして増えているのですか―
『それは、全くわかりません。でも、恐らくですが、人間と細菌ってうまくバランスをとって共存しているんですよ。清潔にしすぎると、逆にこれまでは問題にならなかった異常なものが増えてくるというような。不思議と共存してうまくいくようになっているのですが、それが破られたその時になにかが暴走するのではないかという気がします。
今回のコロナも中国の研究室からという話もあるけれど、そうではなく、同じようにバランスが崩れて抑えが効かなくなったのではないかと私は考えています。中国の話ではありませんが、今、モンゴルでは喘息が増えているそうです。昔の方が清潔ではなかったはずなのに、より綺麗になったら増えてしまった。共存しているバランスがくずれた時に、今まで思いもかけなかったものが急に強くなってにっちもさっちもいかなくなってしまう。21世紀の今だからこそ、コロナが流行ってきたのではないかと。20世紀の初めだったらこんなに流行しなかったのではないかと思っています。交通の便も全然、違っていますからね』
―現在、国や自治体がコロナ対策について議論や対策をしていますがどのようにみていますかー
『そうですね。検査を沢山して陰性と陽性を分けていけばコロナは収まるのではという考え方があります。でも、オーストリアでは一人あたり平均12.3回も検査を行ったそうですが、感染者が減っているわけではありません。特に生活を制限していませんし、マスクもフリーなようですけどね。こうしてみますと、今、検査キットが足らないと報じられていますが、あったからといって闇雲に検査をして収まるかといったらそうではないのでは思うのです。
検査キットの質の問題もあるでしょうし、特に検査のやり方に私は盲点があるのではと考えています。
コロナウイルスの潜伏期間はデルタ株では約5日、オミクロン株ではそれより早い約3日ということですから、感染してからウィルス量が増加して症状が出て発症ありとなるわけですがそれまでのタイムラグがある。濃厚接触者になってしまったら、すぐに検査してしまう人が多いのではないでしょうか。すぐにやっても陰性です。そのあたり“検査には適切なタイミングがある”ということを知っておいてほしいですね。
更に、鼻の中に入れて検体を採取するわけですが、果たして素人が正確に採ることが出来ているのでしょうか。この辺りが甚だ疑問です。そして、陽性であれば感染したのだと思いますが、症状がでない無症候性感染がありうる。特に、20歳代や小児の場合に無症候性発症がかなりあり、それが同居家族内での感染を起こしているのではないでしょうか。自分で検査して陰性の結果が出たとしても信じられませんしね。インフルエンザ感染では、ワクチン接種後でも目の前で咳をする人がいて、大量にウィルスを吸い込んだ場合には発症するといわれています。3回目のワクチン接種が終了していても感染するブレークスルーと呼ばれている感染があり得ます。ワクチン接種や、3密回避を心掛けていてもなお、感染のリスクが残っていることを忘れてはなりません。』
―まだまだコロナは収まりそうにありませんが、予防を含めアドバイスをいただけますかー
『マスクをするだとか部屋の換気するだとかは、すでに皆さんしていると思うのですが、体力を落とさないようにしてほしいです。この時期、運動不足は避けられません。外に出られないから肥満になる、そして気分もなぜか落ち込んでしまう、、、元気な人がそうなっているのです。免疫機能をあげる食べ物はないですが、運動は確実に免疫機能を上げるというエビデンスがありますから、ぜひ、運動は習慣にしてほしいです。また、寝不足は免疫能を低下させると言われます。ワクチン接種後に寝不足状態が続くと抗体価が十分に上昇しないとも言われています。多忙な生活の人は気を付けて頂きたいと思います』。
―どんな運動がお薦めでしょうか―
『実は私も実践しているのですが、ジムへでかける時間がとれませんし、散歩だけでは運動量は足りません。フィットネストレーナーである林慧亮さんがネットで配信している動画を使って毎日40分は運動をしています。筋トレや有酸素運動を組み合わせていて、簡単な動きから汗びっしょりになるくらいのものまであります。一回10~20分、室内でできますので空いた時間に行えますからお薦めですよ!』
―確かに、ネットには様々な運動について配信されていますから活用してみるとよいですね。ネット配信といえば、先生のクリニックでもコラムや動画の配信をしていますね―
『はい、世の中に色んな情報が溢れている中で、私は“ヘルスリテラシー”がとても重要だと考えています。
ヘルスリテラシーとは“健康や医療に関する情報にアクセスして、理解し、評価、活用するための能力”のことですが、沢山発信されている情報の中で、正しい情報を得ることが大切です。ですから、そのためにも、私どものクリニックでは、肺疾患の方向けの運動や栄養についての動画を配信していますし、私も、医療コラム(https://www.rcc-icr.com/article)を書き続けています。ぜんそくやCOPDなど肺疾患については勿論、コロナウイルスについても、正確な情報や新しいトピックスについて発信しています。』
―特に注目された記事はありますか―
『コラムのNo.107 の“ハッピーハイポキシア”についてです。米国の呼吸器専門雑誌に掲載されていた内容を紹介したのですが、“ハッピーハイポキシア”とはコロナで、強い低酸素血症があるのに呼吸困難が起こりにくい状態ことです。血液中の酸素が足りない低酸素血症は、脳など生体にはとても危険な状態です。低酸素血症が起こると呼吸が苦しくなるのは、生体にとっては大切な危険信号なのです。ところが、コロナでは、重症の低酸素血症で危険な状態になっていても苦しいとは言ってくれない。論文の中では、人工呼吸器やエクモが必要となり集中治療室の中でスタッフがあたふたしているのに患者さんが笑いながら家族とスマートフォンで会話をしていた、というエピソードが述べられています。米国メデイアがこれをハッピーハイポキシアと表現したのですが誤解を招きやすい表現だと思います。苦しくないから、“ハッピー”、“ハイポキシア“というのは低酸素症ということなのです。このコラムに関しては世界中からアクセスがありまして40万人以上の方が見てくれたようです。ですから、やはりコロナ関連については皆さん知りたがっているとことがよくわかりました。』
―コロナ後の暮らしですがどのようになるとお考えですか―
「私は、コロナが収束しても、元の暮らしには戻らないと思います。人間は、後戻りは難しく、先にしか進めない。バランスが崩れた時に大変なことが起こって、それを巧く補強して、また先に行って、また別なものがバランスを崩してというように、先に先に行くしかないと。でも、医療の進化って本当に凄いと思うのです。最初にコロナが出てきたときにはワクチンも治療薬もなかったわけですからね。今回のコロナでは、カタリン・カリコ博士が研究していた「mRNA」が注目されました。これまで彼女の研究成果はなかなか評価されなかったわけですが、遂にといったわけでしょう。そして、今ではこの「mRNA」から波及した様々な研究が進められています。産学連携の観点でいえば、そうした大学の研究を評価し企業と共に開発が進んでいけばよいなあと思っています。
私自身としては今後も医師を続けていくわけですが、“人が人を診る”という難しさをいつも感じています。正直にいえば、“不出来な者が難しいものを診ている”わけですよ。ですから、医師も常に勉強が必要ですし、また患者さんと同じ目線でいることが大切だと思っています。私は話好きなので新しい患者さんがくると色々と話を聞いてしまうのですが、その何気ない話からその人の背景がわかってきて、原因に近づくこともできるわけです。
この記事が出るころには、オミクロン株のピークはそろそろ収まっているのではと推測はしますが、マスク生活はまだまだ続くでしょうね。そして、私は3回目のワクチンを打ちましたが、また追加の接種というのもやってくると思います。あと、何十年後かの未来に、「あの時代は大変だったなあ」「ずっとマスクしてたんだー」なんていう日がくるでしょう。私たちが天然痘やペストが流行したときのことを思うように。そんな日が早くくることを望みますね。』
【木田厚瑞】
■プロフィ―ル
1994年 東京都老人医療センター(現、東京都健康長寿医療センター)呼吸器科部長
2003年 日本医科大学呼吸器内科教授、日本医科大学呼吸ケアクリニック所長
2011年 日本医科大学特任教授(呼吸器病学)、日本医科大学呼吸ケアクリニック所長
2018年 日本医科大学呼吸ケアクリニック所長
2019年 東京医療学院大学客員教授
2019年4月 呼吸ケアクリニック東京設立 理事長
■主な著書
『息切れで悩むCOPD』(2017年 法研)
『COPDの最新治療 慢性閉塞性肺疾患 タバコの生活習慣病 (よくわかる最新医学)』(2013年 主婦の友社)
『肺の生活習慣病(COPD)』(2008年 中公新書、中央公論社)
『肺の話』(1998年 岩波新書、岩波書店)
■呼吸ケアクリニック東京
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