【兵庫県立大学特集】ドラッグデリバリーシステム用高分子ミセルの合成

兵庫県立大学 工学研究科  遊佐 真一

■概要

両親媒性ジブロック共重合体は、水中でコア-シェル型の高分子ミセルを形成する。高分子ミセルは,疎水性の薬物を疎水性のコア中に取り込むことで水に可溶化できる。100 nm 程度の大きさの高分子ミセルは、網内系(RES)に捕捉されることなく、体内を循環してがん組織に集積化する。

これはEPR効果と呼ばれる。がん組織周辺の血管透過性が高く、高分子ミセルは血管から流出しやすい。またリンパ系が未発達なためがん組織に到達した高分子ミセルは集積する。制御ラジカル重合法を用いることで水溶性のジブロック共重合体を合成している。水中でブロック共重合体が形成する高分子ミセルの大きさを100 nm 程度に調節することで、ドラッグデリバリーシステム(D D S)に最適なポリマーの合成を行っている。この高分子ミセルのコア中に疎水性の抗がん剤などを取り込ませて、患部まで送達することで副作用を低減する。さらに患部に高分子ミセルを集積化した後に、内包していた薬物を制御放出させるため、ブロック共重合体にさまざまな外部刺激応答性を付与している。例えばpH や温度変化に応答して、高分子ミセルが解離して、内包していた薬物を制御放出するシステムを開発している。

■ポイント

制御ラジカル重合を用いることで、さまざまなブロック共重合体を合成可能である。D D S以外にも応用可能な刺激応答性高分子を合成できる。

例えばpH に応答して水に対する溶解性の変化するポリマーの合成や、pH 変化に応答して溶液の粘度を変化させることのできるポリマーなどを合成している。さらに、pH 以外にも光や温度を外部刺激として、応答する高分子の合成なども可能である。

■応用分野

D D Sをはじめとする医療分野。中でも新規な投薬方法への応用が期待される。他にも刺激応答性の水溶性高分子は、化粧品、インク、ペイント、環境浄化、ナノマシーンなどさまざまな分野に応用可能である。

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