【seeds AI】AI時代を生き抜く工学者のビジネス論
- 2018/5/28
- 大学のシーズ
若 井 一 顕†
†第一工業大学 情報電子システム工学科 〒899-4395 鹿児島県霧島市国分中央 1-10-2
E-mail: †k-wakai@daiichi-koudai.ac.jp
第 1 章 まえがき
高度な通信技術、CPS(サイバーフィジカルシステム)、そして IoT(Internet of Things)の展開が大きく生活環境を変えようとしている。IoT(後述)などは全てのハードウエアがネットで繋がり付加価値を増していく。いろいろな知恵、アイディアが大きくビジネスを創造していくだろう。スマホの活用、ウエアラブルの端末機器が人の健康管理にも有効に活用される時代が来ている。新しいメディアが押し寄せてくる社会である。これらに上手くつき合っていくことが求められる。本論文では新しい時代を俯瞰したい。
第 2 章 近代社会と情報化の流れ
2-1 近年の AI 動向
囲碁も負けた。私は囲碁が好きである。昨年テレビの報道で韓国の囲碁棋士がコンピュータソフト「AlphaGo」と対局して 1 勝 4 敗であった。チェスや将棋では既にコンピュータが勝利したことは知っていたが囲碁でも人が負けてしまった。また将棋のプロ棋士が対局中に席を立ってスマホから情報を得ていたとの疑いで一時期連盟から排斥されて対局から離れざるを得ない状況を迫られていた。それほどコンピュータの支援する力が大きいのかと驚くほどの時代になってしまった。私は囲碁のプロ棋士では無いから対局における思考過程を云々することは困難である。しかし最近のコンピュータは深層学習とかで対局の思考過程を自力で高めていくというから驚きである。それでは PC 同士の対局をさせた場合の辿り着く先は何のだろうか?これも面白いのでは。それではゲームは人がしなくてもよいのではと、あれこれ思いめぐらす昨今である。
2-2 ゲームと AI の果て
深層学習については後段で解説したいが、もう少し身勝手に思いつくままを述べてみる。社会における公共インフラ、交通システム・防災、エネルギの制御、環境のモニタリングによる安全安心な社会生活の確保が求められている。自動車の自動運転などは最近の TV コマーシャルでも積極的に国内外のメーカが仕掛けてきている。最近のマスコミ報道では高齢者の運転事故も枚挙に暇がないほどである。2020 年のオリンピック/パラリンピックに向けた設備投資や街づくりも展開している。金融ではフィンテックという動きが興味をひく。一般家庭では家電と AI とを組み合わせた快適空間への実現が提案されている。IOT ではセンサデバイス、無線通信デバイス、それとソフトウエアを組み合わせた付加価値の拡大が基本要素である。通信技術は第 5 世代通信システム(G5)を取り込んで発展していく。
2-3 未来の生活環境
家電の中でも冷蔵庫とレンジとの対話(通信)によってお奨めのレシピを示したり、食べたい料理を云えば自動で注文配達してくれたり、冷蔵庫の在庫状況を把握して、スーパやコンビニに自動発注するシステムも高齢社会にマッチしたシステムとして宣伝されているようである。EOS(ElectroOrdering System)などの家庭版と行ったところ。最近マスコミで問題になっている宅配事業と IoTとのリンクをスムーズに進めていく必要がある。
2-4 IOT の周辺と展開
ドイツではインダストリー4.0 を推進、米国では GE が中心となってインダストリアルインターネットを提唱している。図 1 に示す様に IDC ジャパンの調査では、2015 年の国内の IOT 市場規模は前年比 15.2%増の 6 兆 2232 億円となり 2020 年までの平均成長率(CAGR)は 16.9%で成長し、2020 年時点で 13 兆 7595 億円まで拡大すると予測している(1)。IOT においてセンサは重要なデバイスでありカメラによる情報収集、環境や状態を監視して追跡するシステㇺが社会成長をけん引すると云われている。クラウドコンピューティングが云われて久しいが、ビッグデータをクラウド上に持って行くとネットがパンクするから最近ではエッジコンピューティングが注目されてきている。米国のシスコシステムズは今後クラウドとエッジを繋ぐ領域が重要になると見ている。雲(cloud)と地面(earth)を覆う霧(fog)をイメージしたフォグコンピューティングも提唱されている。工学の世界、新しいシステムをイメージするためにいろいろな言葉が派生してくるから時代に取り残されないようにするには大変である。
2-5 ビッグデータの周辺
我々の周辺には情報が渦を巻いている。重要かどうかは知ら無いが無尽蔵な情報を有効に使おうとするのはビジネスの自然の動きとも思う。ビックデータを如何に使うか、多くの企業なども注目している部分である。IoT を構成する、センサをネットワークで繋いで AI はこのビックデータ処理があって実現できることになる。多くのデータを蓄積するために大きなストレージも必要となる。データのやり取りには高速のネットワーク環境も整える必要がある。これからは第 5 世代の高速通信路の構築が期待される。
2-6 AI の周辺
AI の一つでもある機械学習への取り組みは多くの企業が開発を進めている。厖大なデータから機械(コンピュータ)に学習させ予測モデルの構築を行う。医療分野では東大と IBM が「ワトソン・ジェノミック・アナリティクス」を活用して癌研究を始めている。ソフトバンクのペッパーは人との対話を通して顧客支援やコミュニケーションを実現している。法人顧客以外でも個人での利用も今後は進むかもしれない。AI の活用は金融業界では与信管理や不正検知にも活用される。自動車の自動運転ではキーの開発部分になる。AI の普及にあってセキュリティを如何に担保するかが今後の課題である。事故責任の所在の探求なども大きなテーマとなって来るだろう。今回の論文のテーマは AI 時代を生き抜く工学者のビジネス論とした。昨年 2016 年の CEATEC では高度なエレクトロニクス技術や CPS と IoT の広がりが近未来の社会や生活を大きく変えていくことをメインに提案されていた。これらの周辺から議論してみたい。
第 3 章 AI と機械学習の展開
3-1 AI とディープラーニング
ニューラルネットワークを利用した機械学習である(2)。
〇畳み込みニューラルネットワーク一つ、一つの情報の関係性や特徴を定量化する方法。声紋分析、手書き文字の認識
〇再帰性ニューラルネットワーク計算処理が終了した計算層にまた処理が戻されることで複数回処理計算が行われる。入力順序に意味のある音声や動画データの処理に向いている。
〇弱い AI とは
・自ら考えることが出来ない
・問題解決の計算は可能だが解決方法が導けない
・ Deep Blue:チェスゲーム,Watson:IBM
〇強い AI とは
・思考できる知能を持つ
・問題解決手段を探ることが出来る
・これらは発展途上。AGI(Artificial GeneralIntelligence)なども展開。
3-2 AI とロボット
先日、長崎にあるハウステンボスに出かけて来た。「へんなホテル」に泊まってみた。フロントの受付には恐竜と女の子のロボットが居る。音声認識で客を確認して部屋への誘導が行われる。高齢の客は戸惑ってなかなか受付が進まない。最後の手段は受付助手(人)の男性なり女性がフロントに駆けつけてくるから少しアナログな感じである。部屋に入ると小さなロボットがベッドの横にちょこんと座って居て照明やテレビのオンオフをしてくれる。慣れないとなかなか私の声を判断してくれない。人の声質によってロボットの認識度が違う様である。新しいホテルビジネスとして、子供連れの若い夫婦にはアミューズメント感覚で集客も期待できるだろう。未完成の面白さはあった。どこかの保険会社だったか相当数の社員を AI に代えたというからこれも興味深い。ロボットが人に置き換わる時代。人は時間内で勤務させる必要があるがロボットであれば文句も言わずに愚直に働くかもしれない。しかし後述するシンギュラリティ時代になると、愚直に働かなくなる機械も出てくるかもしれない。
3-3 AI とシンギュラリティ
AI が人を越える特異点のことをシンギュラリティと云うようである。予想では 2045 年といわれているが。シンギュラリティ(技術的特異点)という言葉を使ったのは、1993 年に数学者であり SF 作家でもあるヴァーナー・ヴィンジという人物である(2)。カールワイルの議論では、基本的には工学技術は指数関数的に進歩向上していくということで
ある。ムーアの法則からすると半導体集積回路の素子数は 1 年半後に倍になるという経験則がある。10 年後には 100 倍、20 年後には 1 万倍という伸び具合である。(2year/1.5)の計算式で考えればよいことになる。ムーアの法則のような性質を生物進化や文明進歩にもあるとして、これを収穫加速の法則と名付けている。人間の処理能力と発展するコンピュータの処理能力と比較して 2045 年という数字を計算したらしい(3)(4)(5)。
第 4 章 災害と AI
日本列島は災害の多いところである。地震やゲリラ豪雨などをみると AI などの防災利用も今後の開発テーマであると考える。
4-1 近年の災害の例
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災を受けて、設備に対する信頼性設計の重要性は増してきた。設備の予備系を含む冗長性の最適な設計は難しい課題である。古い話で恐縮であるが、私が放送設備の設計、管理に携わっていたころの多くの災害が思い起される。時系列的に挙げてみると 1995 年 1 月 17 日、5 時 46 分に発生した阪神淡路大震災、2000 年 6 月始まった東京都・三宅島の噴火そして 9 月には全島民退避。2004 年 10 月 23 日の 17 時 56 分に起きた新潟県中越地震新潟、記憶に新しい 2011 年 3 月11 日、14 時 46 分に起きた東日本大震災がある。テロでは 1995 年 3 月 20 日の地下鉄サリン事件、2001 年 9 月 11 日に起きたアメリカの同時多発テロなどがあった。その時代で間接的、直接的に業務対応に追われたことを思い出す。自然災害と防災設計についてどう対峙していくかについても近年の AI、IoT、そしてビックデータの活用展開に期待するところは大きいと考える。
4-2 今後の防災とインフラ管理
多くの災害に対応する設備の在り方を AI 技術で模索する時代が始まったように考える。最適な解を求めるための不断の努力の中から開発・改善テーマを探す。温故知新のテーマから改善策を探る。昔と現在の技術展開の比較検証から改善テーマを探る。対策と効果をどう評価するかも課題。災害を模擬できる仕組みとは何か。未知の災害を想定内として設備設計に生かす方法を探る。
・大規模自然災害に対するインフラ設備の在り方
・放送通信、情報伝達設備に求められること
・自然災害:地震、台風、洪水、噴火、津波、集中豪雨、豪雪、火災、落雷
・人災:テロ、犯罪、ケアレスミス、故意、防御
・設備の老朽劣化:保守、延命対策、老朽更新にはAI や IoT、ビックデータをどのように融合させるかも考えて行きたい。
4-3 信頼性設計に向けて
新しい設備の開発に向けた取り組み。設備信頼性の向上と人的災害の低減。過去に有った障害例(ビックデータ)とその分析と対策。何が重要か。知恵の創出に向けた取り組み。設備の弱点を探すこと。弱点を投影する方法。古い技術と新しい技術の中から信頼性設計を追及する工学展開。
4-4 議論の展開と変革と AI
・古い事例と事故の想定
・弱点を指摘する
・改善への足掛かりを見つける
・新しい機器の開発と活用
第 5 章 デジタル時代の設備とメンテナンス
私の専門は放送・通信である。その視点から AIビジネスとの融合を考えてみたい。
5-1 放送における安全・信頼性基準
「放送は、緊急災害時を含め、日頃から国民生活に必需の情報をあまねく届ける高い公共性を持ち、安全・信頼性が求められることから、放送を行うための電気通信設備に対し安全・信頼性に係る技術基準を定め、技術基準適合性を審査し、運用に当たり適合維持業務を課すもの」とある。放送法施行規則第 102 条から 115 条にかけて中波放送、短波放送、超短波放送、コミュニティ放送、地上デジタル放送、衛星基幹放送、移動受信地上基幹放送に係る安全・信頼性に関する「技術基準」が示されている。放送法施行規則では以下の内容が記載されている(6)。これらの設備の信頼性管理などに AI との融合が有効であると考える。
・第 104 条 予備機器等
・第 105 条 故障検出
・第 106 条 試験機器及び応急復旧機材の配備
・第 107 条 耐震対策
・第 108 条 機能確認
・第 109 条 停電対策
・第 110 条 送信空中線に起因する誘導対策
・第 111 条 防火対策
・第 112 条 屋外設備
・第 113 条 放送設備を収容する建築物
・第 114 条 耐雷対策
・第 115 条 宇宙線対策
以降は放送メディアやその設備規模に応じて特例を規定している。
・第 116 条 中波放送
・第 117 条 短波放送
・第 118 条 超短波放送(community 放送は除)
・第 119 条 コミュニティ放送
・第 120 条 地上デジタルテレビ放送
・第 122 条 衛星基幹放送
・第 123 条 移動受信用地上基幹放送
第 6 章 人の管理 HRM
6-1 AI による監視
今は町を歩くといたるところに監視カメラが設置されている。世の中、カメラによる監視が無いと正常に機能しないのかと嘆きたくなる。現代版の神の目といったところであろうか。最近は車にもカメラを設置して交通事故時のなどの状況判断にも使われている。画像認識技術が高性能化いているから多くの情報から人の顔を判別するのも容易になったと云える。犯罪抑止と事件の早期解決には有効である。
6-2 人間の思考行動のメカニズム
人間の限界を知ることは重要である。例えば体温 42℃以上、27℃以下では生命に危険を伴うと云われている。人間の思考と行動過程について、図 2 に幾つかの項目を挙げ。人間系の特徴とそれを補完する AI システムの融合も期待される。
○人間の陥りやすい傾向を知る
○人間の脳の情報処理メカニズム
○感覚受容(視野の限界、盲点、錯覚)
○選択認知(パターン認識、ブレーン・ローテ-ション)
○記憶(短期記憶、長期記憶)
○判断(ミステーク)
○行動(スリップ)
○意識(意識の諸相)
○人間の脳の情報処理メカニズム
○人間の感覚
人の感覚と情報量を表 1 に示したが、視覚情報量は際立って多いことがわかる。巡回点検などではこの五官の活用が大変重要である。
ついつい技術屋感覚で議論してしまうが、電気設備の高圧線路に直接触ることは出来ないから電圧印加部の充電状態などについては、高圧遮断後のアース(接地)の確認が大変重要である。アースの確認は必ず自分で行うことである。もっと細かいことを云えば、アース線路のメンテナンスも重要なのである。昔、アース棒のアース線路が絶縁パイプの中を貫通するタイプのものがあったが、これなど中で切れていても分からない。最近は絶縁棒の先端のフックに導線が接続された構造のものが多い。導線の始末は面倒であるが目視できるので安心である。AI による安全管理への応用にも期待したい。
○物を見たり考えたりする時は固定観念にとらわれず多面的に行う必要がある。
○そうあって欲しいという願望が強いと物事を見誤る。
○必要に応じ焦点をずらし、常に新しい目で局面を見て適切な判断ができる努力と能力を養う。
6-3 パターン認識とは
人とコンピュータの情報の認識能力は異なる。人間は補足して情報を取得する傾向があるからエラーを誘発することがあると云われる。補足だけをみれば良い面もあるが、安全管理上は不具合を生ずることがある。これからはコンピュータもフレキシビリティを高めていくことで、人間系に近い補完した認識能力も持つかもしれない。高度化が必ずしも安全側に傾くとは簡単に決めつけられないかもしれない。人間系の過誤についても慎重にシステム化すべきである。
第 7 章 MOT のキーワードから
7-1 ジャックウエルチの 4Es と Edge
技術経営論を大学で講義していたときに GE のCEO であったジャックウエルチの 4Es について議論したことがあった。
4Es とは、 Energy, Energize, Execute,それとEdge であるが、詳細は MOT のビジネス論を参照されたい。この中で Edge とは経営者がぎりぎりの状況で判断をくだす崖っぷちの状態をいう。経営者がサイコロを振って意思決定をすることはないだろうから、多くのデータや経験に基づく中で答えを出すことになる。この多くのデータが「ビ
ックデータ」であることも当然考えられる。日頃からこれらのデータに接して分析しておくことがEdge を鋭く効かせることになる。
7-2 AI クリエータは居るのか
AI が小説や音楽を創ることも可能と考えられる。音楽のパターンや小説の典型的なパターンをランダムに組み合わせる方法で幾つかのアウトプットが可能である。ありきたりのものでは満足できなくなるのが人の常であるから、奇をてらう創作が可能かは今後に期待したいところでもある。適度にバグがあるとそれを喜ぶ風潮が生まれるかもしれない。茶器の「織部」のような、あえてバグや偶然性を加味したソフト設計も考えられる。
7-3 AI と医療診断の迅速化
AI というキーワードからいろいろなビジネス提案は可能である。ロボット介護や医師による病名の判断などの事例データと現在の患者の診断データを照合できれば、客観的な病名の候補を抽出することが出来る。全てが AI 任せとはいかないのは当然であるが、有効なツールになることは必然である。回答も迅速である。
7-4 自動車事故の急増、地方都市の問題
最近、マスコミ報道にコンビニへの自動車の突っ込み、歩行中の園児への突っ込み、そして道路の逆走などが取りざたされている。特に高齢者が多いように見受けられる。これらの対策にも AIやセンサ技術の活用が期待される。自動運転などの研究も国内外を問わず盛んにおこなわれている。自動運転の究極はハンドルが無い自動車の出現か?ドライビングの楽しさも忘れてはならないが、どのような選択となるか興味深い。自動運転中に事故が発生した場合にその責任の所在について問われることになるから、この点の保険業界の研究も必要になる。自動運転社会において少なくともケアレスミスによる事故は大幅に減るものと期待される。
第 8 章 新しいビジネスに向けて
本論文では工学的な視点からビジネス論を語ることにした。高度な情報社会の発展の先に、今は思いつかないような新しいビジネスが創造されることは想像に難くない。大学の学生が数人で起業した会社が大きく社会を変革する可能性は無限に残されているように思う。ドローンが出て来て久しい。首相の官邸の屋上に不時着していたニュースも驚きであった。宅配ビジネスは遠距離の搬送方法を模索している。これは通信路の確保とドローンのモータを回転させるエネルギの供給方法の新たな開発が望まれるだろう。飛翔体への法整備も重要である。
8-1 仕事マッチングと人材派遣
人材派遣業は企業と人を結びつける。テンポラリースタッフの活用が基本である。仕事を求める方と仕事を提供する側のマッチングを AI がビッグデータの管理で短時間に見出すことも可能であろう。労使双方が満足できれば業務の定着率は高まる。結婚して出産後の女性労働者の就業率は M字曲線で示されることがある。有能な女性労働者を見出して就業させることの意味は大きい。待機児童の解消が取りざたされているが、保育施設の設置に加えて、効率的な AI システムで仕事の斡旋提供がされることを期待したい。
8-2 学生、キャリア、高齢者の人材派遣
一億総活躍時代と云われる昨今である。多くの学生、キャリア人の仕事の定職率も向上させる必要がある。最近は学生の就職率も高くなってきている。ブラック企業などに取り込まれなければ就業率も高まるはずである。定年退職者にも定年後の就業が出来る環境づくりが必要である。AI やビックデータを上手に活用した就職の斡旋や就業管理も重要になるだろう。自分のキャリアが的確に評価されて、個人のエキスパティーズのポータビリティ性が確保されれば転職しても身分が保証される時代が来るかもしれない。学生の就活に置いて、エントリーシートを提出するのが一般的である。基本要件を記述した書類を AI で効率的に選別すれば、面接に有効に時間を割くことができるようになるだろう。企業の就職担当の職員も助かるかもしれない。
8-3 設計ミスを指摘
技術屋として絶対に設計ミスは避けなければならない。以前、建築業者の耐震設計の杜撰な仕事が社会問題になったのは記憶に新しい。これは故意に行った例であるが多くのデータを効果的に使って 1 次評価を AI に委ねることも有効である。企業では多くの目で評価管理がされているものと思うがケアレスミスで仕事に手戻りが生じるのは情けないことであり大きな損失になる。
8-4 教育と AI
ビックデータ、IoT 、そして AI を使って教育における効果的な情報提供は可能である。人の記憶力のみに焦点を当ててストレージの補完だけにAI を求めることは危険である。有機的な教育で形成された人格をどのように社会にマッチングさせるかは難しい課題であると思う。人に深層学習的な行為をさせることが有効なのかどうかはわからない。倫理などをどのように学習させるかも難しい部分である。人前ではいい子を装う答えを最初から教育されては問題である。
8-5 大手企業と中小企業の就活 AI
就職戦線では、大手企業も中小企業も優秀な人材獲得に躍起となっている。どこの企業も優秀な人材を求めている。若手は大企業志向も多いのではないだろうか。逆に中小企業の良さが見えない環境にもある。「鶏口牛後」の企業選択もあるかと思う。自己の能力が十分に発揮できる環境が重要なのだと考えるのだが。最適な業務とのマッチングを AI が支援することが出来れば素晴らしいことである。幾つかの人材派遣会社ではそのようなことを模索している。
8-6 ブランドから質へのマッチング
マーケティング論を教えていると、ブランドのもつ売り手の優位性と買い手の優位性があることを理解する。ブランドは時間をかけたロイヤリティの構築の結果でもある。質の高い製品やサービスを消費者に如何に伝えるかも AI の活用が期待される。ビックデータの中からより良い製品やサービスの選択が容易にできる時代である。
8-7 政治と裁判への AI の活用
最近テレビ番組では多くのコメンテータが事件や事故を論評している。同じようなことの繰り返し、それでもテレビ局は時間を売っているから放送を流し続けている。同じことを巧みに表現する能力に長けたコメンテータがなんと多いことかと思う。以前、学歴詐称のコメンテータがマスコミにやり玉に挙げられていた。彼などは表現力の巧みな業師であったと記憶している。多くの議論の題材となるビックデータを AI で 1 次選択して、情報のエッセンスを抽出してそこから議論を進めた方が結論に導きやすいのではと思うことがあるのだが。
・事実を整理する
・人為的な方向性を客観的に捉える
・水掛け論の解消
・論点の明確化
・Artificial intelligence 思考の理解
・ゲームの世界(囲碁・・・)
・自動運転(事故と保証)
・ビッグデータの意味すること
・医療診断のファーストオピニオン
・AI が小説やテレビドラマを書く
・ディープラーニングに続くもの
・AI 監視(不正や失敗を防ぐ)
・Technological singularity(2045 年?)
・AI の守るべき倫理とは何か
9 章 むすび
AI 社会について思いつくままに記述した。多くのハードウエアとソフトウエアが早いスピードで出現する時代である。IoT ではネットワークとセンサが結びつきながら付加価値を大量生産する時代である。まだまだ手探りの部分もある。法的整備なども進めて行かねばならいだろう。泥縄式になっては大きな損失を被るから先読みの設計開発が重要になると考える。社会問題解決も将来設計も AI に創造してもらう時代が来るかもしれない。シンギュラリティの時代を迎える前にやるべきことは沢山ありそうである。
(参考文献)
1)電波新聞、2016.10 月 CEATEC 資料
2)西垣通:ビックデータと人口知能、中公新書、2016.12
3)IoT ビジネス研究会:60 分でわかる IoT ビジネス、技術評論社、2016.11
4)AI ビジネス研究会:60 分でわかる AI ビジネス、技術評論社、2016.11
5)人工知能研究センター:トコトンやさしい人口知能の話、日刊工業新聞社、2016.12
6)若井:「放送設備の防災設計と信頼性管理」、放送技術連載 2014~2015 年、兼六館出版社