今回は、聖マリアンナ医科大学で感染症学をご専門とする國島広之先生に、「適切な治療を受けるために患者さんに知っておいてほしいこと」を伺いました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「患者力」についてお話を伺おうと取材に訪れたのですが、思ってもみない展開になりました。
岩田:「國島先生、患者としては、診断って“正解”が出ているものだと思っているんですけど……」
すると先生から返ってきたのは、意外な一言。
國島先生:「診断は、間違いだらけですよ」
えっ!?
患者としては、なかなか衝撃的です。
でも話を聞いていくうちに、その言葉の意味が少しずつ見えてきました。
「これは尿路感染症だ」と思ったら…
國島先生が教えてくれたのは、実際に経験したケースです。
80代の女性が発熱で救急外来を受診。
尿失禁があり、検査でも炎症反応が高かったそうです。
「高齢者の発熱で、尿検査も悪い。普通に考えたら尿路感染症なんですよ」
「そうですよね」
私も頷いてしまいました。
ところが、その後まさかの展開に。
入院時に撮影した心電図で、急性心筋梗塞が見つかったのです。
しかも患者さんは胸の痛みを訴えていませんでした。
「胸が痛くない心筋梗塞だったんです」
思わず、
「ええーっ!?」
と声が出てしまう私。
國島先生ご自身も、
「僕も完全に尿路感染症だと思っていました」
と振り返ります。
幸い入院していたため適切な治療につながりましたが、診断の難しさを物語るエピソードでした。
医師も迷い、相談する
印象的だったのは、國島先生が繰り返し話していた「相談」の大切さです。
「病院の外来では、他の医師に電話して意見を聞くこともありますし、近くにいる看護師や部下の医師に相談することもよくあります」
診断は、一人で考え込むよりも、さまざまな視点を取り入れた方が見落としを減らせることがあるそうです。
「報告・連絡・相談は大事です。1人だと漏れがあるから」
患者からすると、医師は常に答えを持っている存在のように見えます。
しかし実際には、悩み、考え、周囲の意見にも耳を傾けながら診療しているのだと知りました。
「老衰」って、実はよく分かっていなかった
取材中、私自身が特に興味を持ったのが「老衰」の話でした。
國島先生は、
「半年間ほとんど食べられなくなった90代の方が受診した」
というケースを紹介してくれました。
私は、
「それって心臓とか腎臓とか、何か病気なんじゃないですか?」
と思ったのですが、
國島先生はまず、
「老衰かもしれないと思った」
と言います。
ところが後で詳しく調べると、実はネフローゼ症候群だったそうです。
ここでも診断は一筋縄ではいきません。
さらに、
「年齢だけで老衰になるわけではない」
とも話していました。
実際、先生のお父様世代でも旅行を楽しんでいる人はたくさんいるとのこと。
私はこれまで、
「高齢だから老衰と言われるのかな」
と思っていましたが、そう単純な話ではないようです。
患者はどこまで希望を伝えるべき?
岩田:「患者は気になる症状や病気を医師にどんどん伝えた方がいいのでしょうか」
國島先生:「それが役立つこともあるし、逆効果になることもある」
患者としては、
「念のため検査してほしい」
と思います。
でも医師側から見ると、その検査によって本来考えるべき病気から注意が逸れてしまうこともあるそうです。
「何事にも功罪がある」
白か黒かではなく、その時々で判断が変わる。医療の難しさを感じた瞬間でした。
一方で、國島先生は患者さんに、
「どんな病気が心配ですか?」
と尋ねることもあるそうです。
私は診断のヒントを探るためかと思ったのですが、
「正直に言うと、診断の補助というよりは、コミュニケーションを円滑にする意味合いが大きいですね」
とのこと。
実際、先日の外来では、
「僕はフレイルだと思うんですけど、どうしたらいいですか?」
と相談されたそうです。
患者さんが何を心配し、どんな情報を持って受診しているのかを知ることも、診療の大切な一部なのだと感じました。
患者満足度は“説明の速さ”で変わる?
國島先生は研修医の息子さんに、こんなことを伝えているそうです。
「患者満足度は、医師が話すスピードと反比例する」
つまり、早口になればなるほど満足度は下がる。
確かに、診察で専門用語を一気に説明されると、頭に入ってきません。
國島先生ご自身は、
「僕なんか趣味の話とか、仕事の話ばっかりしてますよ」
と笑います。
そうした何気ない会話の中にも、患者さんを知るヒントが隠れているそうです。
さらに興味深かったのが、
「診察室に入る前から診察は始まっている」
という話でした。
國島先生は、可能なときには自ら診察室のドアを開けて患者さんを迎えるそうです。
理由を聞くと、
「歩く速さや表情、元気さは、診察室に入る前の方がよく見えるんです」
歩行速度は「第6のバイタルサイン」と呼ばれることもあり、廊下を歩いてくる数秒間には多くの情報が含まれているそうです。
「全員ではありませんが、診察室に入る前から診察は始まっています」
何気ない動作にも医師は目を向けているのだと知り、驚きと共に、今度、自分が受診するとき、緊張してしまうなと思った岩田です・・。
【取材後記】
今回のインタビューで、「誤診することもあるんですよ」と率直に話してくださった國島先生。
こうした話は、医師にとって決して語りやすい内容ではないと思います。
それでも包み隠さず話してくださったのは、患者に迎合するためでも、自分を良く見せるためでもなく、医療の現実を正しく知ってほしいという思いからなのだと感じました。
そしてインタビューの最後、國島先生はこんなお話も。
「診断や治療のスターではなく、普通のお医者さんになりたいです」
さらに、
「三つ星フレンチレストランも良いのですが、毎日のご飯と味噌汁の方が奥深く好きです」
とも。
華やかなスーパードクターではなく、患者の日常に寄り添う医師でありたいという意味ではないですかね。
この言葉は、今回伺った“医療のリアル”を象徴しているようにも感じます。
“診断は決して万能ではない”
だからこそ医師は学び続け、悩み、相談しながら患者と向き合っている。
そんな医療の姿を少し知ることができたインタビューでした。
インタビュー・記事//岩田まこ都
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
國島先生から「これ、読んでみたら」と渡された一冊。『医者は現場でどう考えるか』
実際に読んでみた感想が、DOCTOR’SVOICE内の「読書日和」に掲載されています。
こちらもご覧いただけたら嬉しいです。

”程”というお言葉、いただきました。何事も、ほどほどに。
