【seeds 質量・成分の分析】 人工知能と成分分析による天然成分の見える化と製造プロセスへの応用:食品~医薬品まで

『人工知能と成分分析による天然成分の見える化と製造プロセスへの応用:食品~医薬品まで』

小西 正朗 (北見工業大学工学部教授)

渡辺 一樹 (北見工業大学大学院工学研究科バイオ環境化学専攻2年)

立花 成我 (北見工業大学工学部バイオ環境化学科4年)

 

【概要】 機器分析による網羅的な成分分析解析による原料成分解析データからバイオプロセスをはじめとする製造プロセスの予測モデリングと因子解析手法

 

【詳細内容】

・背景

食品加工・発酵・バイオ医薬品製造などで利用される製造プロセスにおいて、多くの天然成分が利用されている。これらの成分は主に動物や植物からの抽出により製造されており、その組成は複雑で変動しやすく、同等品においてもロット間やブランド間でその性能が異なることがよく知られている。例えば、酵母を溶菌させて製造する酵母エキスは、肉エキスの代替品として加工食品に利用される他、微生物や培養細胞の培地成分として利用される。ブランドにより原料酵母種や株が異なること、原料酵母の培養状態や加工製造条件が変動することなどによりロット間でも組成変動がある(1)。それらの組成変動の影響を受けやすいバイオプロセスにおいては、ロット間の比較試験が欠かせない。そのため、天然物を原料とするバイオプロセスにおいて、原料組成変動による製造効率や品質に対する影響を正確に把握し、プロセスにフィードバックする手法の開発が求められている。

 

・メタボロミクス

メタボロミクスとは、細胞の活動によって生じる代謝成分を網羅的に解析する手法であり、生物のすべての代謝物(メタボライト)の変動から細胞の生理状態を把握する技術である(2, 3)。細胞内成分の分析には高分解能・高感度な分析機器が用いられ、高速液体クロマトグラフィー・質量分析計(LC-MS)やガスクロマトグラフィー・質量分析計(GC-MS)、キャピラリー電気泳動・質量分析計(CE-MS)・核磁気共鳴スペクトル(NMR)などが目的に応じて採用される。得られる多変量データを解釈するため、主成分分析・クラスター解析・部分最小二乗解析などの統計手法が用いられる。メタボロミクスはガン等の疾病研究だけでなく(4)、食品の官能分析の代替手法としても利用できるため、農業や食品分野での応用も期待されている(5. 6)

 

・プロセス分野におけるメタボロミクス手法の活用

筆者らは上述のメタボロミクスを用いて、天然物原料成分の変動に由来するプロセスへの影響を解析する技術について研究を進めている。GC-MSにより、6種類の酵母エキス中の水溶性低分子成分約200種類の組成データ(基質のオーム:サブストレイトーム)から、これらのエキスを用いた大腸菌増殖を予測することに成功している。予測モデルには部分最小二乗法(PLS-R)やニューラルネットワーク(人工知能)を活用している。これらのいずれのモデル化手法でも高い精度で予測ができている。それぞれの成分の相関係数や重要度の算出により、それらの成分がどの程度、培養結果に影響しているか予測することも可能となっている。同様に、リグノセルロース系バイオマスの糖化液中の揮発性成分組成からバイオエタノール生産への影響を予測することもできている。詳細なデータについては専門誌での発表を予定しているので、そちらを参照いただきたい。

 

・次世代のプロセス設計

食品加工、発酵分野だけでなく、抗体医薬品製造やiPS細胞を用いた再生医療などで利用される細胞培養分野でも、同様の課題が内在している。本手法を用いれば、現在主流であるトライ・アンド・エラーをベースとした実験的手法によるプロセス設計から、メタボロミクスを活用したデータベース型のプロセス解析手法による次世代スマートプロセス設計への転換が可能であろう(図)。

 

【図】次世代スマートプロセス設計の概念図

 

【参考文献】

  1. Potvin, J., Fonchy, E., Conway, J., and Champagne, C.P. (1997) An automatic tubidimetric method to screen yeast extracts as fermentation nutrient ingredients, J. Microbiologic. Meth., 29: 153-160
  2. 草野都,斉藤和季 (2005) メタボロミクスの考え方と解析の概要,化学と生物. 43: 101-107.
  3. 馬場健史 (2011) メタボロミクスの技術開発と応用,生物工学会誌.89: 102-208.
  4. Wishart DS. (2016) Emerging applications of metabolomics in drug discovery and precision medicine. Nat. Rev. Drug Discov. 15: 473-484.
  5. 及川彰 (2016) メタボロミクスの農業・食品分野の応用,化学と生物. 51: 615-
  6. Fukusaki E. (2014) Application of metabolomics for high resolution phenotype analysis. Mass Spectrom (Tokyo). 3: S0045.

【問い合わせ Mail: konishim@mail.kitami-it.ac.jp】

The following two tabs change content below.
国立大学法人 北見工業大学 所在地 北海道 北見市 工学部 教授 小西 正朗 webサイト http://www.kitami-it.ac.jp/

最新記事 by 国立大学法人 北見工業大学 工学部 教授 小西 正朗 (全て見る)

国立大学法人 北見工業大学 工学部 教授 小西 正朗

投稿者プロフィール

国立大学法人 北見工業大学
所在地 北海道 北見市
工学部 教授 小西 正朗
webサイト http://www.kitami-it.ac.jp/

関連記事

産学連携推進専門委員

ページ上部へ戻る
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。